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「食中毒かな?」と思った時の対処法~高齢者の食中毒1

 

​ 気候が良くなると外出の機会も増え、家族で外食することも多くなります。また、ピクニックなどお弁当を持って近くの公園で昼食を摂るのもよい気晴らしになります。ただ、暖かくなると気になるのは食中毒です。まずは、食中毒を疑う症状が出た場合の家庭での対処を考えます。

・急な下痢や嘔吐に市販薬は禁物

​食中毒とは、飲食物を原因とするすべての中毒症状を指しますが、ここでは食品に混じった細菌またはウイルスによる食中毒についてお話します。最初に現れる主な症状は、下痢や嘔吐ですが、特に高齢者は激しい下痢、嘔吐で脱水症状になり、重篤な状態になることもあります。

​ 急な下痢、嘔吐が起きた場合は、慌てて市販薬などを飲まないように注意します。また、以前、同様の症状で処方されたからといって、病院でもらった薬の残りを勝手に飲むのも大変危険です。普段処方されている別の疾患の薬がある場合も服用を一時中止し、かかりつけ医の指示に従ってください。

​ 下痢や嘔吐は体内に入ってきた異物から体を守るための生体防御反応のひとつです。下痢止めや吐き気止めの薬を飲んでしまうと、体内から排出されるべき食中毒の原因菌(あるいはウイルス)や、それらが出す毒素が排出されないため、症状を悪化される恐れがあります。また、嘔吐や下痢の食中毒ではなく、別の病気の場合も考えられます。安静を保ち、以下のような水分補給を行っても症状が軽くならない場合は、医療機関に連絡をしてください。

・脱水状態を避けるため上手に水分補給

 

脱水症状にならないよう、経口補水液(※)またはスポーツ飲料を薄めたものを少しずつ、ゆっくり飲んで水分補給をします。特に高齢者の場合、吐瀉物(としゃぶつ)を誤嚥(ごえん)することがありますので、嘔吐の際、横になっている場合は顔を横に向けさせるなど配慮します。また、体を極力温め、冷やさないよう注意します。

※経口補水液 水に塩を含む電解質と糖分を一定の割合で溶かしたもの。小腸から吸収され、体内の水分、電解質のバランスを整える。下痢の際には、正常血液浸透圧(290±5mOsm/kg)よりやや低い浸透圧の飲み物の方が腸からの

​吸収が良いため、200~270mOsm/kgに調整されている。

 以下の症状がある場合は、緊急度が高いと認識しましょう。心当たりがあるときはまずは病院など(内科医)に電話連絡をして、指示を仰ぎましょう。

<すぐに医者に連絡した方がよい場合>

・吐瀉物や排泄物に血液が混じっている場合

・発熱している場合

・激しい腹痛がある場合

・口から水を飲めない、飲んでもすぐに嘔吐してしまう場合

・手足のしびれ、激しい頭痛がある場合

・小便が出ない、極端に少ない場合

<救急車を呼ばなければならない場合>

・下血(肛門から血液を排出すること)、吐血がある場合

・意識がもうろうとしている場合

・呼吸が苦しい場合

・麻痺、痙攣がある場合

食中毒はなぜ起こる その原因や特徴は?~高齢者の食中毒2

 ひとくちに食中毒といっても、原因となる菌やウイルスはいくつもあります。その種類によって治療が違うため、診察のときにはその原因となる菌・ウイルスを特定することが大切です。食中毒の原因を知ることで、診察時に何を医療者に伝えればよいのかを考えます。

・食中毒の原因と特徴

 食中毒とは、飲食が原因となって起こる中毒すべてを指します。たとえばフグやキノコの毒に当たるのも食中毒ですが、頻度は少ないものです。食中毒の原因で最も多いのは、食品の中に混入した細菌またはウイルス。これらがほとんどを占めます。

 そこで、まずは食中毒をより理解するために、食中毒の型や潜伏期間についてみていきましょう。

 感染型の食中毒…細菌やウイルスがついた食品を食べることで、小腸の中で細菌が増殖して症状が引き起こされるものです。

 毒素型の食中毒…食品についた細菌が増殖して毒素を作り出して食品を汚染し、それを食べることで症状が引き起こされるものです。

 中間型の食中毒…細菌がついた食品を食べることで、小腸の中で増殖した細菌が作り出した毒素によって症状が引き起こされるものです。

 潜伏期間…原因菌・ウイルスを含んだ食品を食べるなどしてから、症状が出るまでの時間をいいます。短いものでは数時間、長い場合は数日の潜伏期間がありますが、それぞれの原因菌・ウイルスによって特徴があります。例えば調理する人の手指の傷が原因となる毒素型食中毒の代表格である黄色ブドウ球菌(毒素はエンテロトキシン)による食中毒は、特に潜伏期間が数時間と短いことが知られています。

・病院へ行くときに必要な情報

 下痢、嘔吐などの症状が出て、食中毒を疑って医療機関に問い合わせる場合は、何を、いつ、どれぐらい食べたかを医療スタッフに伝えることが早期の原因特定

に結びつきます。もし、食べ残した食品がある場合は、一緒に持っていくとよいでしょう。また、つい最近海外旅行をしている場合には必ず報告します。

 医療機関では、症状に応じ、便や吐瀉物から菌を培養して原因を特定します。また、腸管出血性大腸菌による食中毒が強く疑われる場合は、検査キットによる検査や、腹部超音波検査を行います。

​ 平成23年に焼肉店で提供されたユッケ、レバ刺し等で大勢の方が感染し死亡に至った腸管出血性大腸菌o-111とo-157については、記憶に残っている方も多いでしょう。これらの腸管出血性大腸菌は、体内で増殖してベロ毒素と呼ばれる強い毒素を出します。ベロ毒素は体内で細胞を破壊するため、出血性の下痢、溶結性尿毒症症候群(※)や、脳炎などの重い症状を引き起こします。

 生肉等を食べている場合は、どこで(どの店で)食べたかも含め、早急に医療者に報告するようにしましょう。

※溶結性尿毒症症候群 急性腎不全、血小板減少、細血管障害性溶血性貧血の3つの症状が現れる症候群。血便、腹痛のあとで、血尿、乏尿(尿が極端に少なくなる)が現れる。

痙攣や脳症を引き起こすことがあり、死に至る場合がある。

 比較的頻度の高い細菌性・ウイルス性食中毒についての、病原菌・ウイルスや潜伏期間、症状などは以下を参考にしてください。

【食中毒の原因菌・ウイルスの種類と潜伏期間、症状など】

(1)サルモネラ菌(感染型)

潜伏期間…12~36時間

原因となる主な食品…鶏卵、鶏肉など

特徴的な症状…下痢、腹痛、嘔吐、発熱、血液の混じった腸の粘膜の排泄

(2)カンピロバクター(感染型)

潜伏期間…2~5日

原因となる主な食品…加熱不十分な鶏肉、豚肉、牛肉、内臓類、加熱処理されてない牛乳

特徴的な症状…下痢、腹痛、発熱、血液が混じる便

​(3)腸炎ビブリオ(感染型)

潜伏期間…12~36時間

原因となる主な食べ物…鮮度の落ちた生の海水魚

特徴的な症状…下痢、腹痛、嘔吐、発熱

(4)腸管出血性大腸菌(Oー157など)(感染症)

潜伏期間…3~4日

原因となる主な食品…加熱不十分な肉類、内臓類

特徴的な症状…激しい腹痛、水様下痢、鮮血便、溶結性尿毒症症候群、脳症

(5)ノロウイルス(感染型)

潜伏期間…12~48時間

原因となる主な食品…生や加熱不十分なカキなどの二枚貝

特徴的な症状…下痢、嘔吐

(6)黄色ブドウ球菌(毒素型)

潜伏期間…数時間

原因となる主な食品…傷のある手で触れた食品

特徴的な症状…腹痛、嘔吐、水様下痢

(7)セレウス菌(中間型)

潜伏期間…30分~15時間

原因となる主な食品…菌のいる土で汚染された野菜等

特徴的な症状…嘔吐、下痢(どちらか一方が主体となることが多い)

(8)ボツリヌス菌(毒素型)

潜伏期間…18時間~数日

原因となる主な食品…真空パックの食品、ハム・ソーセージなどの加工肉、ハチミツ(乳児)

特徴的な症状…麻痺、脱力、呼吸障害、瞳孔が広がるなど

(9)ウェルシュ菌(中間型)

潜伏期間…数時間~2日

原因となる主な食品…作って時間のたった煮込み料理(カレー、シチュー、給食など)

​特徴的な症状…下痢、嘔吐

食中毒の治療法と二次感染の予防~高齢者の食中毒3

 診察と検査により原因が特定されると、原因菌・ウイルスに応じた治療が開始されます。

同時に家庭での手当と、二次感染の予防が大切です。医療機関で治療に使う薬と、二次感染の予防方法について解説します。

・治療の基本は水分補給と安静

 

 すべての食中毒に共通する治療は、対症療法(症状を軽減する、または取り除く治療法)です。まずは嘔吐、下痢によって失われた水分、電解質、糖質などを補う輸液を行います。口から飲める場合は、経口補水液(第1回参照)を飲ませます。

 吐き気がひどい、飲んでもすぐに嘔吐してしまうなど、口から摂取ができない場合は点滴を行います。脱水が進行すると、腎不全や脳血栓などを併発することもあります。腸管出血性大腸菌が引き起こす食中毒で溶結性尿毒症症候群(第2階参照)があらわれた場合は、輸血や一時的な人工透析によって体液のバランスを管理する必要があるときもあります。

 多くの場合、医療機関でも吐き気止めや下痢止めは処方しません。第1回にも前述したとおり、嘔吐や下痢を止めてしまうことで、体内の菌や、菌によって作り出された毒素が排出されず、重症化する場合があるからです。

 黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ノロウイルスによる食中毒では、輸血とともに乳酸菌製剤などの整腸剤を服用して安静を保つことが最大の治療となります。

 ボツリヌス菌による中毒では、毒素によって呼吸の麻痺が起こることがありますので、分かり次第、抗毒素血清の注射をします。

・食中毒の治療薬は医師の判断の下で服用しましょう

 原因菌に対する抗菌薬(抗生物質)の治療を行う場合もあります。たとえば生の鶏卵で感染しやすいサルモネラ菌の中毒においては、菌血症(※)が強く心配される場合には、ノルフロサキシン、ホスホマイシンなどを使います。鶏肉などが感染源になることが多いカンピロバクターの中毒では、ホスホマイシン、クラリスロマイシンなど適宜使います。

※菌血症 血液中に細菌が入り込んでいること。細菌が血液中で増殖すると敗血症となり、全身性の炎症反応(敗血性ショック)を起こして命の危険を伴う。

 腸管出血性大腸菌による中毒の場合は、抗菌薬の使用によってベロ毒素の治療が増える可能性もあり、より慎重な治療が必要になります。

くれぐれも自己判断で市販薬を服用したりせず、必ず医師の指示に従って治療を受けてください。

 ・二次感染を防ぎましょう

 腸管出血性大腸菌、ノロウイルスによる感染症の場合、感染者の便や吐瀉物に触れた人が感染する二次感染が危惧されます。まず、患者、介護者は手洗いを励行します。その際、逆性石鹸や、消毒用アルコールを使うようにします。吐瀉物などの飛沫(しぶき)からも感染しますので、介護者はマスクや使い捨て手袋、使い捨てエプロン等を着用するのがよいでしょう。

 トイレ以外の場所を吐瀉物や便で汚してしまった場合は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(台所用塩素系漂白剤を薄めたもの)(※)に浸した新聞紙などで覆って汚物をふき取り、ビニール袋に密閉して廃棄します。

 また患者が使うトイレは可能な限り他の家族が使わないようにします。患者が触れたドアノブなどからも感染しますので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使って拭き取ります。

 患者の吐瀉物や便のついた衣類などは、多量であればビニール袋などに密閉して廃棄します。洗濯する場合は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使って消毒後、洗濯するようにします。

※次亜塩素酸ナトリウム水溶液

吐瀉物や便の処理用(1000ppm)…水1リットルに50㏄に台所用塩素系漂白剤を入れる

ドアノブ等の拭き取り用(200ppm)…500㏄の水に、ペットボトルのキャップ1杯(約5㏄)の台所用塩素系漂白剤を入れる

 なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、金属を腐食させたり、衣類の色を落としたりします。使用時には十分ご注意ください。

食中毒にかからないための注意点とは?~高齢者の食中毒4

 すべての病気と同じように、食中毒も予防することがなにより大切です。特に家庭では、原因となる菌やウイルスを極力口に入れずに済むように考えます。食中毒予防の三原則、食中毒菌を「付けない、増やさない、やっつける」を守ることで、家庭での食中毒の発生を防ぎます。

・高齢者はとくに、食中毒にかかりやすく、かかった場合には重症化しやすい傾向があります。免疫力が弱っていることが多いからです。家族と同じものを食べたのに、高齢者だけが食中毒の症状を起こすこともあります。高齢者では配食サービスなどを受けることも多いですが、調理して時間がたった弁当の残りなどを「もったいないから」と食べたりしないよう十分注意し、残り物は早めに処分するよう心がけます。また、食品の消費期限などの表示にはきちんと従うようにしましょう。

​ 手指の化膿した傷にいる黄色ブドウ球菌の作り出す毒素、エンテロトキシンは、100度の熱で30分間加熱しても分解されませんので、よく加熱した食品であっても危険は変わりません。手指などに怪我をした人が調理に携わらないようにします。どうしても携わらなければならない場合は、使い捨ての調理用手袋を利用するようにしましょう。

​ また、食中毒にかかった人(特にノロウイルス)は、症状がおさまってもそのあと数週間、体から菌やウイルスが出ていることがありますので、医師の許可があるまで調理に携わらないようにします。

 調理前、食前の手洗いが大事なのは言うまでもありません。手洗いとともに、アルコール系の手指消毒剤を併用するとより効果的です。

・生肉類は食べない

 また、生ものに関しても、特に生肉類は年齢によらず、食べるのは避けることが賢明です。信頼できる店が提供しているから大丈夫とは言い切れません。生肉についている食中毒の原因菌は、その肉類が新鮮であっても、肉の生産過程で付着していることがあるからです。そしてどんなに衛生的に取り扱っても、肉に付着する菌をゼロにすることはできません。

 また、特に腸管出血性大腸菌やカンピロバクターは、菌の数がほんの10~100個で食中毒を発生させることが知られています。肉類はよく加熱して食べるよう心がけましょう。

・食中毒予防のポイント

 食中毒の予防はまず、予防の3原則「つけない」「増やさない」「やっつける」を守ることです。

つけない」…原因菌・ウイルスを食品につけないよう、清潔に調理する。

増やさない」…菌は調理から時間を置くと食品の中で増えるので、調理後はなるべく早く食べる。

やっつける」…食品を高温で加熱することで可能な限り菌やウイルスを殺す。

 さらに、

持ち込まない」…ケガや感染のある人が調理場に入らない、汚染されたものや食品を調理に使わない

ひろげない」…汚染された食品を調理した調理用具を別の食品等に使わない

 これらは、厚労省や各自治体保健所などのホームページでも確認できます。さらに厚生労働省が推奨する「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」では、以下のことを心がけるよう呼びかけています。

​ポイント1:食品の購入

 生鮮食品は新鮮なものを購入。

 消費期限を確認。

 購入したらなるべく早く持ち帰る。

ポイント2:家庭での保存

 食材はすぐに冷蔵・冷凍庫へ。

 冷蔵庫は10度、冷凍庫はマイナス15度をめやすに。

ポイント3:下準備

 肉や魚、生卵などの調理は、生野菜や果物など生で食べるものとは別に行う。まな板、ふきんやスポンジなどの衛生的な管理。

 冷凍食品は室温で解凍しない。

ポイント4:調理

 調理は加熱を十分する。

 めやすは中心部の温度75度で1分以上(ノロウイルスの場合は85度以上1分以上)。

 調理中に食品を室温で放置しない。

ポイント5:食事

 食事前に手洗いを励行。

 盛り付けは清潔な食器類に。

 調理後の食品を室温で調理しない。

ポイント6:残った食品

 清潔な食器などを使って保存。

 温めなおす際も中心温度75度以上をめやすに。

​ 調理から時間が経っていると思ったら、迷わず捨てる。

​令和4年6月の研修報告です。

​今月は「食中毒と予防について」の研修を行いました☻

​食中毒と予防について
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